ご主人は晩年、体が悪かったか、余り外には出られず、もっぱら家の中におられ、お会いする機会も少なかった。
後日、法事の折、息子さんから意外な面をお聞きした。ご主人はオーデイオに凝り、秋葉原まで通い、部品を買い集め
エレクトロニクスに凝っていた。ひょとしたら原点は手先の器用なラジオ少年であったかを思い起こす。
一方では、自らギター、エレクトーン、ピアノを奏でられ、多趣味のご主人であった。その秀逸な演奏振りは、道を隔てて
自然と耳に入り、爽やかな空気に和まされた。
既に嫁いだ我が家の娘も小学校時代にエレクトーンを習っていたこともあり、2階にお邪魔し、何時も使っている物とは
格段に違うエレクトーンを前に圧倒された。『何時でも、使っていいよ』の寛容な気持ちに甘え、度々、お邪魔し、鍵
盤から生み出されるダイナッミックな音に魅せられ、何時までも忘れられない思い出に残っているようである。
お主人自ら弾かれた、鮮やかに乗りの良いポップスに夢心地であったであろう。

春を告げる燐家の自慢の梅や桃の花である。毎年その時期を迎えると、白か、やや淡いピンク色に見事に咲き
広がる。花音痴の輩も、取りすがりの道にしなやか枝にその華やいだ姿をカメラに納めようとしているとき
「楽しみにしているの・・・綺麗でしょう」
なんて庭先から声かけられ、一緒に花を囲み、自慢の花の美しさの前に改めて、目を奪われた。

内向的なお主人に対して、外向的な奥様はお主人にも負けず劣らず、ギター、花他、旅行など多趣味で幅広い
交遊関係から、来客も多く、邸宅からは人の賑わいも絶えることはなかった。