梅雨明け宣言で熱気がまとわりつく熱帯夜で寝苦しい夜であった。
未だ駆け出しの夏に、クーラーを使えず、扇風機で熱気をまき散らすだけの寝苦しく、漸く眠りに付いた矢先に
電話がかかった。
こんな深夜未明に誰と駆けめぐったが、不吉な予想が当たってしまった。
前後の状況から大凡想像が付いてたが、紛れもなく、病院からの危急を告げる緊急通報であった。
覚悟はしていたが、頭の中では整理できず、取り敢えず、着替え、車のシートを外し、車発進の準備をする。
寝静まった住宅地に、突如の車発車は近所に余計な憶測を招くので気遣い、静かに静かに発進する。

当人の状況は病床にあり、正に輪廻転生の世界であったが、遂に命脈つき、仏様のあの世へ
の旅立ちであった。
その道すがら重苦しい空気は、真っ暗闇の中、時々光る輝きが、旅立ちの姿を伝えるようで、印象
的であった。
JRの線路を跨ぎ、神明の坂に出る。
時間も時間だけに人も車も全く見えない、何時も目にする風景から全く異なる異境の世界であった。
こうこうとライトを照らす路面の中、行き交う車の姿も見せずほぼ独占状態で坂越えを果たす。