坂の頂部から、眼下の住宅地を見通すと漆黒に包まれ完全に闇の世界であった。
街灯の明かりがこうこうと輝き、家々の姿や道路が浮かび上がらせる。
神明の坂を登り切ったところで日野バイパス路が正面を構え、バイパス路を横切る。
バイパス路は中央高速国立ICに結ばれ都心に繋がる幹線路で何時も車列の渦で爆音の世界である。
此処も流石に車の姿は極僅かで、嘘のように静かな別世界であった。
暗闇の中、明かりに照らされ花道を見送られる幻想的な世界は正に地蔵様の死者を祈る{回向}とも思える。

院内に入ろうとしたら、何処も閉まっており、インターフォンで緊急来院を告げ、看護婦さんに迎えられる。
漸く病棟に案内されるが、相部屋のため、僅かな照明を便りに、カーテンで仕切られたベットにたどり着く。
ベット後部に据えられた心臓の動きを監視するモニターの画像は、脈動の波形は無くなり水平線になって
おり、既に事絶たれていたことが、説明受けるまでもなく明らかであった。

映し出された画像は上下に脈打つ波形は消え、既に水平線になっていた。

到着後、医師が駆けつけ、保護者立ち会いのもと、形式的な診察が始まる。
瞼を開け、ペンライトの光をあて瞳孔の反応がないこと、胸部に聴診器を当て、心肺停止、即ち心臓と呼吸が
止まったを確認し、この時の2時45分の時刻を持って死亡を確認され、告げられる。
その間、淡々と事務的に処理され、あっけない幕引きであった。養護施設で倒れ、以来問いかけに反応もなく、
脳梗塞は現代医学を持っても回復は叶わなかった。