大事な昇格挑戦の機会にエントリー出来るか、微妙な時期に、顧客からのクレームがあり、かなり怒り心頭の様子である。
営業からの要請で急遽山陽地区へ出張した。
何でこんな時期にと思うが、お客様は神様、激しい罵倒の世界を覚悟して、腰を据えて、聞き入り説明し何とか鉾を納めて
頂いた。大きい重石が解かれ、そのまま帰れば良かったが、現地営業要請を臨機応変に受け入れ、予定しなかった顧客に
廻り、のんびり帰社した。
その出張中に、資格制度のレポート提出がまったなしの出社当日の期限付きであった。当人の会社生活に関わる大事な踏み
出しの書類提出で、見送れば来年回し、慌てて連絡を取ったようだが、連絡は付かなかった。
出社当日そんな急な要請に、驚く暇もなく、早速、空いている会議室を確保し、昼飯も食わずに何とか定時までにレポート作成
に集中した。
当日言われたテーマに、本人不在中に考え方の骨子をメモで用意して頂いた。書き出し、展開がスムースに何とか滑り込みで、
提出出来、大事な昇格挑戦の機会に臨むことが出来た。
短時間にテーマアップするのも修練を積んだ技量として、必須かも知れないが、おやじの優しい気配りに生涯忘れる事の出来
ない助け船であった。

1968年東京工場から、川崎の計測事業部技術部に転勤し、小松課長の元に配属された。会社の発祥の地と言われる
川崎で、各事業部の技術集団が此処に集まり、主にプラントのエンジニアリングを行い、各工場にオーダする。
京浜工場地帯のど真ん中にあり、敷地の一番縁にあり、目の前に産業道路が走り、近隣の製鉄所から煤塵が降り注ぐ、
産業のメッカでもあった。環境規制が緩かった当時は晴天であっても、お天道様も霞すんで見えるそんな厳しい環境の
世界であった。

年始の休みに、幼い娘を連れて川崎古市場の社宅へお伺いし、新年の挨拶に伺い、御馳走にもなってしまった。
電車で帰る予定であったが、幼い子を、このまま連れて帰るのは実に不憫と、車に乗っていけと、勧められた。
しかし、昼間からしっかり一緒に飲んでおり、折角の行為であるが、お断りしたが、それでも乗って行けと、ついつい
甘んじてしまった。(許されない酒酔い運転ではあるが、現在は違反行為として厳しい罰則)
自分の酔も承知していたのか、息子さんと一緒に同乗し自らハンドルを握り、川崎街道を西下した。所が明らかに
蛇行を繰り返し、蛇行幅も大きくなり、大変危険な、完全な居眠り運転であった。
たまり兼ねた助手席の息子さんが慌てて車を止め、促され、ハンドルを息子さんに交代した。
助手席に移った小松さんは酔もあってか、そのまま高いびきで爆睡されていた。
正に大惨事に繋がる危険な運転になりかねない、無謀な運転であった。
かなり酔っておられたが、幼い娘の姿に意気を感じ、身を挺しての運転であったが、正に男意気の一面であった。
危ない目に晒されたが、天の神に救われ、今頃、高いところで笑って居ると思われる。

部門は高度成長時代に沸き返り仕事も追い風に乗って隆盛を極め、正規配属者に加え、駆け込み寺のように多数の転属者が
あった。人事考課は勤労から評価基準がガイドされているが、その最終評価は当事者が決めるので生臭い人間関係の産物と
も思える。得てして、仕事の評価とは別に胡麻すりなど世渡り上手が出世の早道など現実の世界である。
ある面冷酷な評価は昇給、昇格の生涯の決めてになってしまう。出来の悪い奴と評価され、そのまま突き放してしまうか、改めて
見直し、するかは当事者の判断による。甘い評価を付けたか、判らないが、評価に苦慮していることを正直に漏らしてしまうのも、
善し悪しがあるが、この人の性格の一端である。そんな心ゆきに、この人のために頑張ろうなんて、思ってしまうのは、この人の、
思いやりでは無かろうか。