我々は歩兵第一連隊第一中隊に入って、結局事務を担当し連隊本部に配属された。従って仲間との接触が無く、
廻りは幹部ばかりであった。夜間、しほうの方に行って雑品など購買したものを収支決算し経理に提出するような、
事務の仕事であった。
招集されれば皆、小銃を持って、なんでも撃っちゃえなんて、感覚の実戦とは離れた場所であった。
最終的な位は伍長(1等・2等・上等・伍長)であった。民間出身は開戦で御国のためにと、身をささげ、自分の意志
で帰ってこられず、上手い様にこき使われた。従って派遣発表はどきどきしており、任官しないように祈るのみであ
った。任地として中国大陸の満州など、何年も置かれたら、疎外されてしまう不安感もあった。

親父より後で中国に行き、上海のウンスンクリークに揚がった。
上海では当時有名な都会の一つで、ガーデンブリッジなどがあり、米国、英国、イタリア日本で歩哨に立っていた。
街中では必ず3～5人で編成し、市内警備し、歩哨は交替で任についた。中でも特殊な阿片窟は、長いキセルを
吸う姿は、日本には無い異様な世界で、野次馬根性に駆り立てられた。中には好奇心で吸った者もいたが、たち
まち体に変調を起こして、胃の中のものを総て戻してしまった。1週間続けると、体は蝕まれ、食欲もなくなるため、
ガイコツのように、廃人化されてしまう。
上海は蒋介石軍であった。発端は満州で抗日運動などがあり関東軍が鎮圧のため武力侵攻した。中華民国の
軍人、張学良（ちょうがくりょう）が不戦を誓い、平和的解決を図ろうとしたが、失敗し、最早抜き差しならぬ状態
になり、満州事変に繋がった。広大な土地に多数人が住んで居た所に、軍部の暴走は止められず、最前線の兵
士は神風、神兵と上手くおだてられ突入した。

現地では自給自足であるが、我々は略奪しかなかった。
現地では豚が多数居たが、豚も命が欲しいから逃げ回るが、逃げ場のない我々は豚以下、二度と戦争はしたく
ない。櫓山に入った時、食物もなく、目の前に畑になるさといもを発見し、飢えに苦しんだ空腹からの解放に狂喜
乱舞した。所がさといもを生で食べたら、"あく"でたちまち小便が出なくなってしまった。尿毒症にかかってしまい、
苦しみ喘ぎ、従軍医に尿管にゴム管を入れられ血と一緒に小便が出て、何とか救われた。
激しい戦いに今日か、明日か、死に追い詰められる日々に、一年目は一層のこと華々しく散ったら、とも思うほど
であった。しかし、三年目になると、こんなに苦労したら生き延びたいと言う気持ちに変ってきた。